桐たんすに込められた想いを大切に

民芸調テレビボード

 総桐の小袖箪笥を民芸箪笥調のテレビボードに改造しました。

 元の箪笥はお客様の亡くなられたお母様の嫁入り道具のひとつでした。形見として残したいが収納は間に合っているので何か違う形に再生して欲しいというご依頼でした。
 今回住宅のリフォームに合わせて箪笥もリフォームするということでしたので、リフォーム後インテリアはどうなるか、間取りはどうなるかなど、図面も見させていただいて一緒に検討しました。
 そんな中でテレビ台にすることに決まり、お話をしている中で会津塗りや津軽塗、秀衡塗りなどの塗り物の工芸品が好みだと伺って、閃きました。
 今までやったことはなかったのですが、普通の桐たんすを民芸調にアレンジするということ。たくさん民芸金具をつけなくてはなりません。さらに塗装も普通のオイル塗装では質感が全く違うので漆もしくは漆に近い塗装をしなくてはなりません。挑戦だらけの再生にプレッシャーも去ることながら胸が高鳴る思いでした。

 洗って木地を眺めていると驚くことに民芸金具が付いていた跡がありました。この箪笥はおよそ25年前に一度洗い直しをしているそうで、その時民芸箪笥から普通の箪笥に金具を変えて修理されていたようです。その跡を見た時にさらに胸が高鳴りました。アレンジと思っていたのが実は本当の意味での元に戻す復元ではないかと。ますます意気込んでしまいました。

 まず第一関門としてテレビボードとして高さを調整し、横長な形にまとめること。これには指物の技術が存分に生かされます。下台を中心に上台を半分に切り、蟻組みで一体化させます。
 次は塗装です。漆で仕上げるには予算・工期が合わないので、漆に近い質感のカシューに決めました。カシューはカシューナッツの木の樹液を主成分とした塗料で質感は漆そのものです。初めて使用したので全然まだまだ未熟な仕上がりですがそれでも高級感ある質感に満足です。
 そして最難関は金具です。多くの民芸箪笥を再生してきて感じたことは経年で得た金具のサビや傷、手作りの質感が民芸箪笥最大の味であるということです。しかし現在民芸金具を手作りしているような工房はほぼ無く、民芸箪笥メーカーが独自に製作しているものくらいです。一般には鉄板を型抜きして整形するなんとも味気ないものしか販売されていません。そして新品はつるっとしていて綺麗すぎます。せっかく趣を残すよう再生された箪笥に新品の金具では一気に安っぽくなってしまいます。金具でその箪笥の表情が変わってしまいます。そこで考えました。新品をエイジングさせようと。内容・工程は秘密ですが、うまくいきました。これで箪笥と金具の次元を合わせることができました。

 仕上がりを見たお客様は、ここまでの物になるとは思ってなかった。こいうのが欲しかったと涙ぐんで喜んでくれました。大きく期待を超えたようで安心しました。手間暇かけて細部までこだわった甲斐がありました。多くの挑戦の機会でまた自分自身も成長したように感じます。貴重な機会を有難うございました。
 
【寸法】 W:1500 H:465 D:420(mm)
【塗装】カシュー