桐たんすに込められた想いを大切に

総銀杏面小抽斗の再生

 銀杏面とは、角を意匠的に且つ優しくするために“面取り”をするのですが、その一種で銀杏のように両端が立った丸い形をしている面取りのことです。桐箪笥をはじめ指物にはよく使われる面取りです。しかし今回のこの小抽斗はその銀杏面が全ての面に、裏側や下面にまで施されているとても珍しいものでした。特に驚いたのはホゾ組をされている木口部分にまでも、“付け銀杏面”と言ったらよいか、一度欠き取った中に四半丸棒を付け足して銀杏面に仕上げている仕事にはなるほどねぇこんなやり方もあるんだねと感心し勉強になりました。また、引き出しのつまみも凝っていて、黒檀で作られていて写真のようにヒンジ付きで収納式の下げ釻になっていました。とても細かい仕事がされた小抽斗でした。

 さて、今回この小抽斗を修復アレンジしていただきたいというご依頼を頂き、使いやすいように脚を付けて高さを設け、真鍮のつまみを取り付けました。せっかくですからこの凝った黒檀のつまみを生かしたいと思ったのですが、とっても残念なことにこのつまみはとても小さく、指が入り辛く、つまむのがとても困難で、使いにくいことこの上ないものでした。修復しても使いにくいのでは、実用のための再生にはならないと考え、苦渋の決断でしたが、意匠のみを残し、穴を開け、金具を取り付けることとしました。ただ、この意匠に合うような金具を探すのも一苦労で、特注で作ろうかなと思ったほど大きさと形にこだわりました。絶対に取って付けた感じにはしたくなくて、違和感が無いように心がけました。

 脚は欅で新調です。本体同様に総銀杏面になるように“三方留め継ぎ”という指物技法を用いています。

 様々なこだわりを感じた元の小抽斗だっただけに再生も妥協することなくこだわって仕上げられたと思います。そう説明を聞いたお客様もご満足されたようで安心しました。貴重な経験をありがとうございました。

【寸法】
W:288 H:800 D:275 ㎜
【塗装】
オイルステン、オイルフィニッシュ