桐たんすに込められた想いを大切に

チェストに思い出の着物もアレンジ

 総桐の二つ重ね引き出し5段の箪笥を四つ足のチェスト2竿にアレンジしました。
 さらに今回は着物生地を引き出し前面に貼るというアレンジです。

 この箪笥はお客様のお婆様の嫁入り道具でした。造りを見る限り、戦時中もしくは戦後間もない厳しい時代に頑張ってちょっとでも良い総桐の箪笥を持たせたいという気持ちで作られたような印象を受けました。材はさほど厚くはないが最大限厚くなるように作られており、木目はともかく渋抜きや乾燥などもよくされている良質な材を使ったように思われます。年代の割には渋で黒くなっている部分が少なかったです。金具はやはり金属不足であっただろう時代におそらく貴重なアルミで惜しむように作られたと思われます。それゆえ肉薄で、経年劣化で取り外す際に取手は二つ折れてしまい、割足はほとんど朽ちていました。しかしお客様は取手の握った感じに一番思い入れがあったので取手だけは磨かず、塗装もせずそのまま再利用することになりました。

 箪笥は着物をしまって使われていたものの、納戸の片隅に置かれていました。お客様は引き継がれてから処分することなく、いつか綺麗にして活用したいと長らく考えていたそうです。ゆくゆくはご長女様に嫁入り道具として持たせたいとも考えていました。
 さらに、お母様とお婆様のもう袖を通すことはない着物も沢山あってその処分も悩まれていました。それらもなんとか活用したいという話から、箪笥に貼れないかというご提案をいただきました。
 自分自身それまで箪笥に布を貼るという経験は無く、少々躊躇しましたが打ち合わせの中でこの再生はすごくいい物になるという確信に変わりました。

 着物生地のレイアウトはお客様とその高校2年のご長女様で決めていただきました。レイアウト案をいただいた時の第一声は「かわいぃ〜!」でした。さすが女子高生の感覚はポップで若々しいと思いました。家具界でも今までにない箪笥になるだろうと高揚感が止まりませんでした。

 着物生地を綺麗に貼る作業は困難を極めましたが、なんとか形にすることができました。ステンレスのラインが華やかな印象でありながらぐっと引き締めるアクセントになったと思います。

 いつものことながら手元に残らないのが寂しいですが、四世代の想いが一つの形になった今回の再生は、酒井指物の歴史に残る作品になったと自負しております。貴重な経験を与えてくださったお客様には大変感謝したします。ありがとうございました。
 
【寸法】 一竿: W:910 H:800 D:420(mm)
【塗装】オイルステイン着色、オイルワックス仕上げ