桐たんすに込められた想いを大切に

北欧ビンテージテイスト

 四つ足のチェストにアレンジしました。

 北欧ビンテージの家具が欲しかったお客様でしたが、買う前に思い起こせば実家にビンテージな家具があるじゃないか!と祖母の嫁入り道具の桐たんすを思い出したそうです。出来合いの北欧ビンテージ家具を買うことは簡単ですが、自分ちのビンテージ家具を見直してみようということで当社にお声掛けを頂きました。

 箪笥はおそらく戦時中もしくは戦後間もない頃で材料の無い時代に作られたものと見受けられました。前面のみが桐で、その他は杉で作られた、いわゆる前桐(まえぎり)という桐箪笥というよりほぼ杉箪笥というものです。しかしそれ故、嫁入り道具としてせめて格好だけでも桐箪笥を持たせたいという強い親心が込められた箪笥であるとも言えます。

 鉄釘で補修した跡が沢山ありましたが、それは大事に直しながら使っていたという証拠でもあります。一見ボロボロで汚い箪笥に見えるのですが、洗って削って直せば綺麗に生まれ変わるということをお客様は解っていて、祖母の形見として残すこともできるし、意匠をアレンジすれば好みのビンテージ家具になるという先見の明があったのでした。

 意匠を北欧ビンテージ風にして欲しいとご依頼を受けるまで、私自身恥ずかしいことに北欧ビンテージ家具という世界を知りませんでした。自分なりに意匠ポイントを研究し、どう桐箪笥に落とし込むか、終始自問自答しながら仕上げました。

 おそらくお客様も仕上がるまでどんなものになるか想像が付かず不安だったと思います。私としては精一杯自信を持って製作した自負はあるものの、果たしてお客様の思う形になっているだろうかと不安を抱えたまま納品となりました。

 仕上がりを見たお客様の第一声は「やっぱり直してよかったぁ!」と。心の底からホッとしました。キャッチャーミットど真ん中に豪速球がスパーン!と快音が鳴ったような心地でした。改めていろんな勉強になったし新しい挑戦もできました。そして、お客様のセンスと思い切りの良さには感服いたしました。感謝いたします。有難うございました。
 
【寸法】 再生後(一竿分) W:840 H:800 D:410(mm)
【塗装】オイルステイン着色、オイルワックス仕上げ