珍しい箪笥を預かりました。本体が総黒柿面で総無垢七分厚の胴体に一枚杢の裏板、重ねの蟻組、それに額戸。
富山へ嫁入りの際に誂えた嫁入り箪笥で、おそらく相当高価なものであっただろうと推測されます。作りからして加茂の箪笥ではなく、富山で作られたものだろうと思われます。さすが北陸は今もなお婚礼箪笥文化が残るほど儀式や文化というものを大事にする土地柄に思います。そういう文化(気持ち)がモノとして後世まで残り、伝わるというのは稀有で重要なことだと改めて感じました。
再生内容は、和箪笥のお盆を無くして、ハンガーポールを付けて洋服箪笥に改造するというもの。コートなど丈の長いものも収納したいので下の引出し一つ分まで一空間になるように上台地板と下台重ね板をくり抜きました。
桐は柔らかく、木ネジが効かないので、ハンガーポールの取り付け方には工夫をしました。また、丈の長いコートの裾が引出しの中にある状態で誤って引出しを引き出してしまった際に、くり抜きと先板とで挟まらないように先板上端を少し欠きました。
形や用途は変わっても、そのモノが残ればそこに込められた想いや歴史が残り、伝承していきます。再生を通して今使える形にすることは今後へと引き継ぐ過程となるということを再認識しました。箪笥の伝統とは古の技術や文化をただ単に維持することではなく、使われて伝えられて初めて生きる道具の文化なのだと再認識いたしました。伝統工芸や伝統技術にも同じことが言えると常々思っていたのを、改めて思い起こされる機会となりました。ありがとうございました。
【寸法】W:1060 H:1670 D:410(㎜)
【塗装】黒柿面:オイルワックス仕上げ
本体:砥の粉仕上げ