幅が3.5尺(1060ミリ)の三つ重ねの総桐たんすの復元です。
この箪笥はお客様のお母様の嫁入り道具でした。作られたのは戦後間もない頃でしたが、当時とあるお嬢様の嫁入り道具として作られた桐たんすと同モデルでのご注文であったということで、総桐で間口も広く、額戸で黒柿もあしらってある高級品の箪笥でした。
お客様も幼少の頃からこの箪笥と触れ合ってこられて、お母様の想い出の箪笥であり、ご自身も想い入れのある箪笥だったそうです。
しかし、エアコンの下に置いてあったため結露した水が垂れて水染みができてしまったそうです。それだけでなく、中周りにはカビが多く生えたために今回の再生に至りました。
額戸や、面落ちといった高級品に見られる意匠的な仕様は再生にとっては困難を極めます。洗って鉋で全体をひと削りするのですが、どうしても鉋がかけられない箇所があるのです。鉋をかけやすくするために面落ちをなくしたり額戸を板戸に変えてしまうという仕法もあるのですが、それは職人の意思優先でお客様の意思ではありません。当然見栄えが変わるのでせっかくの高級品が台無しになりますし、想い出も無くなってしまいます。ですので当社では本当の意味での復元を目指します。面倒をしてもする意味があるのです。
生まれ変わった桐たんすを見たお客様も満足してくださり、自然と箪笥にまつわる思い出話しが出てまいりました。箪笥を通じて昔を懐かしみ、様々な想いが繋がり重なるということが本当に嬉しく思います。また後世までご活躍されることを願います。ありがとうございました。
【寸法】 W:1060 H:1720 D:420(mm)
【塗装】トノコ仕上げ