桐たんすに込められた想いを大切に

三つ重ねを大改造

 総桐の三つ重ねの箪笥が、合計五種類の家具・小物に生まれ変わりました。

 この箪笥はお客様のお父様の婿入道具でした。昭和25年当時、奥様が大八車に乗った箪笥を押さえ、お父様が引いて婿入をされたそうです。婿入がまだ憚れる時代にせめてもと持たせてもらった大事な想い入れのある桐たんすでした。しかしご両親の他界をきっかけに実家は取り壊すことになり、箪笥の処遇も悩まれていました。そんな時に当社を知り、ご両親の想い出の桐たんすを再生して自分のもとに置いておきたいというご依頼を頂きました。

 再生内容は、上台はソファに、中台はテレビ台に、下台は食器棚に。余った材で花台と、小物入れを製作するというものでした。
 とにかく余すことなく想いを残したい。そこに新たに使うお客様ご夫婦の想いが重なり、形になりました。
 どれもお客様はとても具体的に考えていただいていたので打ち合わせは非常に順調で、確実でした。

 ソファは座面・背もたれ共に傾斜をつけよりくつろげる形にしました。クッションはお客様の好みの色系統でお任せ頂き、私の妻と二人で決めました。改めて見ても可愛いソファに仕上がったと思います。

 テレビ台は部屋のコーナーに合わせて後ろ角を落とし、上段はデッキスペース。下段は引き出し。
既存のテレビ台の高さに合わせるように四つ足を製作しました。これまた短足加減が可愛らしいものが出来たと自負しております。

 食器棚は下台の棚板を取り外し、向きを変えて棚を入れ直し、ガラスも入った開き扉になりました。片側面は地板を下から覗いた格好になりますが、箪笥だった面影を感じられる部分となります。

 花台は引き違い戸を天板に加工し、細く四方に広がる足を製作しました。貫の下端部分に曲面を施したことでガラッと雰囲気が軽いものとなりました。

 小物入れはお任せでしたが、様々なサイズのものが収まるように、ごく小さい小物はトレーに入れられるような作りにしました。使用した部材は主に引き出しの側板や先板、底板を再利用出来ましたが、製材しなおすので厚さ6ミリという精細な作りになりました。しかし小物といえどもしっかり作りたかったので幅3ミリ、深さ2ミリのほぞを作って組み合わせています。ここにも面影が残るように引き明けと戸引き手の金具をアクセントで取り付けました。

完成した家具たちを見たお客様はご両親のことを思い起こし、涙しながら喜ばれていました。そこまで想いの詰まった箪笥を再生できたことに感謝するとともに、箪笥の再生を通じてご両親への想いを思い起こされたことが何より嬉しく思いました。
 改めて桐たんすは想いが伝わる家具であると実感いたしました。素敵な機微をありがとうございました。
 
【寸法】もとの桐たんす W:885 H:1535 D:425(mm)
【塗装】オイルステイン着色、オイルワックス仕上げ